
牧之原台地のテロワール
牧之原台地が本格的な茶産地として発展したのは、明治時代(1868–1912)のこと。旧士族たちがこの地を切り拓き、現在では日本を代表する茶の産地のひとつとなりました。大井川がもたらした古い沖積土は、水はけがよく、わずかに酸性で、日照時間にも恵まれています。茶葉がゆっくりと、バランスよく育つための理想的な環境です。
このテロワールから生まれる碾茶は、雑味のないクリアな風味と、自然な奥行きを備えています。それが、北浦抹茶の味わいを形づくる土台となっています。

被覆と栽培
茶葉は収穫前の約4週間、寒冷紗(かんれいしゃ)による被覆を行います。布を葉に直接かけるのではなく、茶樹の上に張ることで、風と湿度の循環を保ちつつ、クロロフィルの生成や、旨みのもととなるアミノ酸の蓄積を促します。
この方法は、茶樹本来のかたちと生命力を大切にする「自然仕立て」の栽培を支えるものでもあります。その分、手間はかかりますが、健やかに育った茶葉が、抹茶の奥行きある味わいを生み出します。

収穫から加工まで
碾茶は春に手摘みで収穫され、鮮度と色合いを保つため、現地ですぐに蒸しの工程に入ります。酸化を抑えた茶葉は、その後乾燥・選別を経て京都へと送られ、伝統的な石臼挽きによって抹茶へと仕上げられます。

京都での石臼挽き
石臼挽きは、時間と手間を惜しまない、非常に繊細な工程です。40gの抹茶を挽き上げるのに、およそ1時間を要します。ゆっくりと挽くことで熱の発生を抑え、香りや色合い、栄養成分を損なわずに保ちます。
牧之原では栽培から碾茶づくりまでを担い、仕上げの石臼挽きは、日本における抹茶文化の中心地・京都で行われます。長く受け継がれてきた分業のかたちが、北浦抹茶の品質を支えています。

もが茶が示す透明性の課題
世界的に抹茶の需要が高まるなか、日本で伝統的に行われてきた被覆栽培の碾茶だけでは、その供給が追いつかなくなっています。その結果、被覆を行わない煎茶由来の粉末茶など、低コストの製品が「抹茶」という名称で市場に流通するようになりました。
こうした代替品は、長期間の被覆、碾茶への仕上げ、時間をかけた石臼挽きといった重要な工程を省略しており、「もが茶」と呼ばれることもあります。そのため、風味や色合い、品質には本来の抹茶とは大きな違いが生まれます。

北浦抹茶を選ぶ理由
北浦抹茶は、牧之原の単一生産者と直接向き合いながら、畑から仕上げまでを一貫して管理しています。被覆期間や収穫時期、施肥、碾茶の加工工程に至るまで、すべてを記録し、各ロットの背景を明確にしています。産地の確かさと工程の責任を、すべての段階で担保するためです。

生産コストの上昇や気候変動、担い手の高齢化など、茶農家を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、透明性と直接的なパートナーシップは欠かせないものになっています。北浦抹茶は、トレーサビリティと伝統的な製法を重視することで、持続可能なものづくりを支え、日本の茶文化への理解と価値をあらためて育んでいきたいと考えています。
